IT業界では、「人月商売」のビジネスモデルが広く利用されています。このビジネスモデルはIT業界特有のものですが、広く利用されてきたこのビジネスモデルに疑問を持つ人が多くいるのも事実です。
この記事では、「人月商売」のメリットとデメリットを解説し、転職を考える際に必要となる考え方を考察していきます。
人月商売が”人売りビジネス”?

IT企業で広く導入されている「人月商売」。
このビジネスモデルが”人売りだ”と言われている事実があるようです。詳しく見ていきましょう。
人月商売とは?
「人月商売」とは、ソフトウェア開発などの業界で使われる言葉で、一人のエンジニアが1ヶ月間でどれだけの仕事をこなせるか(これを「1人月」という)を基準に、仕事の進行度や料金を決める方法のことを指します。
つまり、エンジニアがどれだけの時間を働いたかが、そのまま収益になります。
しかし、この方法はエンジニアのスキルや作業の品質をあまり考慮しないため、エンジニアの真の価値が見落とされることもあるとされています。
作業スピードが速く、効率よく開発を進められる人と、作業をしても効率の悪い人と比べると、同じ時間作業を進めたところで成果が大幅に変わることがあります。その場合、優秀なエンジニアでは”時間単位”が非効率・不利益につながることが多いのです。
人売りビジネスと言われるのはなぜ?
「人月商売」はSES会社の場合、人材を貸し出す取引方法とも捉えられます。例えば、5人の技術者を6ヶ月間貸し出す場合、その技術者たちの労働時間によって開発価格が決まります。
しかし、この方式では、技術者が働いた時間に基づいて料金が決まるため、労働時間が多いほど企業の収益が増える一方で、技術者がどれだけの価値を提供したかは考慮されません。
このような方式は、アルバイトのように時間給で働く仕事と同じく、技術者のスキルや経験よりも労働時間が重視されます。その結果、技術者のモチベーションにも影響を与える可能性があります。
これらの点から、「人月商売」は「人材を売るビジネス」、「人売りビジネス」とも呼ばれています。
人月商売のメリット

では、「人月商売」のメリットについて整理していきます。
クライアントが見積もりを一目で理解できる
人月を用いたシステム開発の見積もりは、作業量を数値化しクライアントにとってわかりやすく示せるところが最大の強みです。具体的な作業内容やそれにかかる費用を理解するのは専門知識がなければ難しいですが、人月で見積もることで人件費を基準にコストが明確化します。
これにより、専門家でない人でも一目でコストを把握でき、同じ基準で見積もられた複数の見積もりを比較することも容易になります。
プロジェクトの進行状況を簡単に把握することが可能
人月に基づいた工数管理の利点は、作業の期限と進行状況が明確になることです。具体的な作業とその完了期限が設定されているため、プロジェクトの進行状況を随時確認できます。遅延が生じた場合は、途中で対策を講じて作業ペースを上げることも可能になります。このように締め切りの遅れを防ぐ対策を行うこともあるようです。
また、システム開発会社にとっても、人月に基づいた工数管理は有益です。
作業計画が明確化されるため、開発者は作業に集中し、予期せぬ問題が起きた際にも進行状況を考えながら落ち着いて対応することができます。また、経験を積むことで進行イメージがクリアになるため、見積もりの精度が上がるというメリットもあります。
人月商売のデメリット

人月商売で考えられるデメリットは以下の通りです。
開発会社が見積もりをごまかせる
システム開発の費用を考えるとき、最も重要なことは「完成するシステムを作るために全体で何が必要か」を見て、それに見合ったコストを考えることです。
しかし、一部の顧客は「人月単価」、つまり1人のエンジニアが1ヶ月働くための費用に注目するため、人月単価をあえて下げ、期間を延ばすことで利益を得ようとする開発企業も少なくありません。その場合、優秀なエンジニアがいて作業が想定より早く終わっても、無駄に期間だけが長くなってしまい「人月単価でもらっているから、終わっていてもとりあえずパソコンの前に座っていてね」となる場合も往々にして存在します。
また、開発会社によっては、人月単価を低く見せかけて、開発期間を長く設定することで全体の費用を調整することもあります。これらの例は悪質な例ではありますが、人月単価にこだわる企業ではなく、全体のコストと開発期間を重視する企業の方が、優秀なエンジニアが働きやすい職場だということがわかります。
生産性が二の次になる
「人月商売」は、”エンジニアがどれだけの時間働いたか”に基づいて収益が決まるビジネスモデルです。
そのためこのビジネスモデルでは、”仕事の成果”よりも”働いた時間”が大切になります。
たとえば、3人月分の契約をした場合、毎月必ず3人のエンジニアが働くことが求められます。
仮に1人のエンジニアが効率的に3人分の仕事をやり遂げたとしても、それだけでは3人月分の収益は得られません。
つまり「人月商売」では、エンジニアが一定の時間働いたことを確認することが最も重要となることがわかります。
そのため、時間をたくさんかけて働いたエンジニアほど収益は増え、逆に効率的に働くエンジニアは問題視されることもあります。
結論として、「人月商売」のやり方を悪用すれば、仕事の成果よりも働いた時間が重視されるため、効率や生産性が二の次になってしまうという欠点が存在します。そうなってしまうと、優秀なエンジニアになりたいと思う人も少なくなり、エンジニア自身の向上心を奪ってしまう恐れがあります。
エンジニアの士気が下がる
人月商売は、エンジニアがどれだけ稼働したか、つまり時間をどれだけ費やしたかが収益に直結するビジネスモデルであり、エンジニアのスキルや成果が二の次になってしまいます。結果として、役に立たないメンバーでも存在するだけで売上に貢献できるという状況が生まれ、全体の生産性の低下を招いてしまいます。
ただ存在するだけで報酬を得られるという状況は、エンジニアのモチベーションの低下にもつながり、さらに生産性の低下を招く可能性があります。
この対策としては、エンジニアのスキルや成果を適切に評価し、報酬に反映させる新たなビジネスモデルの構築が求められます。そのためには、エンジニアのスキルや生産性を向上させる教育や研修の充実、また、自己成長を促す環境の整備が必要となるでしょう。
エンジニアとして転職するときの考え方

では、もっとモチベーションを高く保てる開発会社で働きたい!と考える場合、どのように考えて転職活動を進めていくのがいいのでしょうか?
人月商売の今後についても触れながら、転職活動において重要な考え方を考察していきます。
人月商売の今後
これまでの記述からわかる通り、「人月商売」はクライアントにとって見積内容が理解しやすく、価格の根拠を伝えやすい方法であったとしても、悪質にそのビジネスモデルを採用している企業で働く人にとっては「スキルアップの妨げになる」、「士気が下がりやすくなる」というように感じやすいビジネスモデルであることがわかります。
そうなると、エンジニアとしてどんどんスキルアップしたい人にとっては、マイナスになる可能性がありますよね。
個人の働き方を重視する人や、個人事業主として働く人が増加傾向にあるこの世の中を考えれば、このような働き方を求める人は減っていく傾向にあるのではないかと考えられます。
せっかく手に職となるエンジニアの仕事をしているのであれば、自身の技術力を上げて収入も上げられるようなエンジニアになりたいと思う人が多いのではないでしょうか。
転職活動で考えておきたいこと
では、エンジニアとして転職する際に考えておきたい部分について触れていきます。
エンジニアとして転職する際に心得ておきたいこと
- 「人月商売」を悪用するのは多くが「SES会社」であることが多いため、「SES会社を避けたい」と思う場合は事前にコミュニケーション能力を育んでおくこと
- 「SES会社」であっても優良な企業は存在するので、できる限り多くの企業を見るようにすること
- 掲載されている求人を見ても判断が付かないことが多いので、面談でしっかりと観察し、判断すること
ここで記載しているように、人月商売のビジネスモデルを採用しているすべての企業が「人売りビジネス」を行っているわけではありません。そのため、転職活動を行う際には、できるだけ多くの情報を集め、自分に最適な企業と出会える努力をしましょう。
また、SES会社との面談で見るべきポイントについてもまとめておきます。転職活動の参考になれば幸いです。
SES会社との面談で見るべきポイント
- 案件の金額が相場を下回っていないかを確認する
- 最終的に案件に参画するかどうかの決定権が、会社ではなくエンジニア自身にあるかを確認する
- エンジニアに経歴を詐称するように指示しないかどうかを確認する
- 目先の利益ばかり見ていない かどうかを確認する(エンジニアを使い捨てと考えていないかどうかに関わってくる)
- 「高還元」と書かれた求人であれば、還元率はどのような構成で成り立っているのかを確認する(”会社負担分の社会保険料”を含めた金額を還元率に上乗せしていないかを確認する)
このポイントを押さえて面談に臨めば、入社後に条件面で泣き寝入りするような事態にはならないかと思います。
勇気のいる質問も多いかと思いますが、自分の環境を守るためにも勇気を出して聞いてみましょう。
まとめ
「人月商売」のメリットとデメリットを解説し、転職を考える際に必要となる考え方を考察しました。
どんなビジネスモデルにも、メリットとデメリットは存在しますが、働き手にとって重要なのは何よりも”働きやすく、ストレスのない職場かどうか”です。多少のストレスは、どんな企業に所属していても感じてしまうものですが、働く上での妨げになったり、モチベーションが下がってしまうような職場は避けたいところですよね。
どんな職場で働きたいかを考えるのに、少しでも参考になっていれば嬉しいです。
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