「60%の人にはプログラミングの素質がない」という説を聞いたことがある人も多いでしょう。学習につまずいた際に「向いていないのかも」と不安になる原因の一つですが、実はこの説の元論文はすでに撤回されており、科学的根拠はありません。
ただし、現場では「継続できる人が少ない」という実感もあります。
本記事では、この60%説の真相と、向かない人の特徴、さらに「スキル不足のままSESに入社するリスク」について解説します。
「60%の人間にはプログラミングの素質がない」説の正体とは?

プログラミング学習に悩む人の間では、“そもそも大多数はプログラミングに向いていない”という極端な説が語られることがあります。
その代表が「60%の人間にはプログラミングの素質がない」という主張ですが、この説には元となる研究と、その後に明らかになった重要な事実があります。
元になった論文は実在するが、内容が誤って広まった
この“60%説”は、イギリスのミドルセックス大学で2006年に発表された“The camel has two humps”という論文が元になっています。
原文PDF(当時の論文):
https://www.eis.mdx.ac.uk/research/PhDArea/saeed/paper1.pdf
ここでは、プログラミング未経験者に基礎テストを行った結果、
- できる人
- できない人
が“二峰性(Camel Hump)”の分布になったとされています。
この研究は、当時の教育関係者の間で大きな話題になり、
「やっぱり人間はプログラミングを理解できる人/できない人に分かれるんだ」
「だから挫折する人が多いのか」
という誤った“解釈”が広がりました。そこに数字が勝手に付加され、「60%の人間にはプログラミング適性がない」という形でネットに定着してしまったのです。
しかしこの論文は研究者自身が撤回している(非常に重要)
発表から8年後、この論文は筆者自身により正式に撤回されました。
撤回論文(Retraction PDF):
https://www.eis.mdx.ac.uk/staffpages/r_bornat/papers/camel_hump_retraction.pdf
撤回理由として示されたのは、
- データの解釈が不適切
- 結果の再現性が確認できなかった
- 結論を一般化しすぎていた
- 教育現場で過剰に誤解されてしまった
という点です。
論文著者のRichard Bornat氏は撤回文の中で、「プログラミング適性を二分するような強い証拠は存在しない」と述べています。
つまり、“60%説”は現在、科学的根拠を持たない都市伝説に過ぎません。
ではなぜ60%説が今でも流布しているのか?理由はとても単純です。
“挫折する人の割合”が実務現場では本当に多いから
- プログラミングスクールの離脱率
- 転職エージェントの面談記録
- 企業の研修での脱落率
こうした現場データを見ると、継続できるのは体感で3~4割程度と語る教育者は珍しくありません。
科学的根拠はなくても、“続けられる人が少ない”という現実が数字と一致してしまったため、この説が消えづらいのです。
プログラミングが“無理だった”と感じる理由は素質ではなく“脳の負荷”にある

多くの人がプログラミングに挫折したとき、「自分には向いていない」と結論づけてしまいがちです。
しかし、理解できない・続かないと感じる背景には、生まれつきの才能ではなく“脳が普段使わない処理を求められる”という、誰にでも起こる負荷が関係しています。
わからないときのイライラの正体は「抽象化ストレス」
プログラミング学習者の多くが最初に感じるのは、
- 何をしているのか分からない
- 全体像がつかめない
- 小さな間違いで動かなくなる
- 理解できなくてイライラする
という強いフラストレーションです。
この“イライラ”は、能力不足ではなく、抽象的な概念を扱うことに慣れていない脳の反応です。
プログラミングでは、
- 目に見えない処理の流れ
- 条件分岐
- 抽象化(関数・クラス)
- データ構造
- 状態管理
など、「頭の中で仮想の世界を組み立てる」作業が必要になります。
これは、日常生活ではほぼ使わない脳の領域です。
だから最初はできなくて当然であり、素質の問題とは無関係です。
プログラミングが無理だった人の多くは“環境が悪かっただけ”

挫折した人の話を聞いていると、多くは以下のようなパターンです。
- 完全独学で誰にも質問できない
- 動画教材を眺めるだけ
- 曖昧なまま進んでしまう
- コードの動く/動かないだけで判断してしまう
- 正しい学習順序を知らない
これでは“誰でも挫折する”のが当たり前です。
つまりこれは素質ではなく、「環境 × 学習方法」の問題 です。
一日中PC作業がつらい人は一定数いる=向き・不向きが生まれる仕組み
科学的には適性差は証明されていませんが、確かに“性質的に続けるのが苦手”な人は存在します。
- PC作業に強い疲労を感じる
- コツコツ積み重ねる作業が苦手
- 細かいミスに耐えられない
- すぐ結果が出ない作業が嫌い
これは才能ではなく性質の問題です。
この性質が強い人はプログラミングが苦痛に感じやすいというだけで、決して“脳が向いていない”わけではありません。
プログラミング未経験のままSES企業に入社した場合どうなる?

プログラミング学習を始めたばかりの人の中には、「とりあえずSESに入ればエンジニアになれるのでは」と考える方も少なくありません。
しかし、開発経験がほとんどないままSES企業へ入社した場合、どのようなキャリアを辿ることになるのかはあまり知られていません。ここでは、現場で実際に起きている配属の傾向や、その後のキャリア形成への影響について、できるだけ客観的に解説します。
まともなSES企業は“本当に何もできない人”を採用しない
SES企業は、クライアントにエンジニアを派遣するビジネスです。
そのため、
- HTMLの基礎
- Gitの基礎
- 簡単なコーディング
などの最低限の素養がないと、現場では全く仕事になりません。
だからまともなSES企業は、「プログラミング全くできません!」という状態の人は採用しません。
悪徳SES企業なら採用されるが、行き先はエンジニアではない
一方で、未経験者を大量に採用している悪質SES企業では、プログラミングできなくても採用されることがあります。ただし、その結果は厳しいものです。
- 家電量販店の販売員
- コールセンター
- ヘルプデスク
- データ入力
- マニュアルオペレーション作業
など、“エンジニアとは呼べない業務”に半永久的にアサインされます。
つまり「SESでプログラミングができない」=エンジニアになれない道に進む可能性が高い。
スキルゼロのまま年齢だけ重ねると、本当に詰む
非開発業務で年齢だけ上がってしまうと、
- 他SESに転職できない
- 開発職で採用されにくい
- 年齢相応の経験がないため評価されない
という“キャリアの袋小路”に入ってしまいます。
SES企業を選ぶときは必ず、「開発案件に入れるかどうか」を確認すべきです。
本当に「プログラミングに向かない人」は存在するのか?

プログラミング学習でつまずく人が多いことから、「向いている人と向いていない人がいるのでは」と考えるのはごく自然なことです。
しかし、その“向き不向き”が生まれつきの才能によるものなのか、あるいは環境や習慣によって形づくられるものなのかについては、冷静に整理する必要があります。
素質ではなく“性質の違い”が向き不向きを作っている
向いていないように見えるのは、
- 集中が苦手
- 調べるのが嫌
- 細かい作業にストレス
- PC作業が退屈
といった性質が原因です。
これは訓練や環境で改善するものも多く、“才能の壁”とは別物です。
向いている人の特徴は“能力ではなく習慣”に近い
例えば、
- コツコツ作業に抵抗がない
- PC作業が苦痛ではない
- 粘り強く調べ続けられる
- 因果関係を整理することが苦にならない
こうした習慣を持つ人は伸びやすいですが、後天的に身につけられるものばかりです。
“プログラミングを勉強するのはもう遅い”は本当か?

プログラミング学習の相談を受けていると、「30代だから遅いのでは」「今から挑戦してももう無理なのでは」と不安を抱く人が必ずいます。
しかし、実際のIT業界では“年齢よりも実務をこなせるかどうか”が重視されており、年齢=壁という見方は誤解されていることが多いのです。
30代・40代の未経験エンジニアは普通に存在する
市場は深刻なエンジニア不足のため、
年齢よりも“実務をこなせるかどうか”を重視します。
実際に30代・40代で転職した人も珍しくありません。
遅いと感じる理由は能力ではなく“生活環境”
- 学習時間の確保が難しい
- 家庭・仕事の負担が大きい
- 集中力が続きにくい
こうした要因こそが、「年齢=遅い」という誤解を生む本質です。
まとめ

- 「60%が脱落する説」には科学的根拠がなく、元論文も撤回済み
- 挫折の多くは素質ではなく「環境」と「学習方法」が原因
- プログラミングは才能ではなく、性質と習慣によって伸ばせるスキル
つまり、プログラミングは生まれつきの才能では決まりません。
続けられる環境と正しい学び方を整えれば、多くの人にとって習得可能な技術です。
年齢や向き不向きにとらわれず、戦略的に取り組むことが成功の鍵となります。


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