「SES営業は底辺」「SES営業は信用できない」といった厳しい言葉を目にすることがあります。
もちろん、こうした表現はかなり強い言い方です。SES営業という仕事そのものを一括りに否定するのは正確ではありません。実際には、エンジニアの希望やキャリアを丁寧に理解し、良い案件へつなげてくれる優秀な営業もいます。
一方で、現場エンジニアから不満が出やすい構造がSES業界にあるのも事実です。
「聞いていた案件内容と違った」「スキルに合わない現場へ入れられた」「トラブル時に営業が守ってくれなかった」といった経験が積み重なることで、SES営業に対する不信感が生まれます。
この記事では、「SES営業=底辺」と決めつけるのではなく、なぜそう言われてしまうのかを、SES業界の構造や責任の押し付けが起きやすい背景から解説します。
SES営業が「底辺」と言われる背景

SES営業に対する悪い評判は、単なる感情的な悪口だけで生まれているわけではありません。
実際には、現場エンジニアとの認識ズレや、案件説明の雑さ、トラブル時の対応不足など、日々の実務上の不満が積み重なった結果として、強い言葉で語られているケースが多くあります。
「聞いていた話と違う」が不信感につながる
SESでよくある不満の一つが、「事前に聞いていた案件内容と、実際の業務内容が違う」というものです。
たとえば、面談前には「開発案件」と説明されていたにもかかわらず、実際に現場へ入ってみるとテスト業務や運用保守が中心だった。
あるいは、「上流工程に関われる」と言われていたのに、実際には既存システムの簡単な修正作業ばかりだった。
こうしたズレが起きると、エンジニア側は「営業に騙された」と感じやすくなります。
営業側としては、クライアントから得た情報をそのまま伝えただけの場合もあります。
しかし、エンジニアからすれば、案件を紹介したのは営業です。
そのため、結果的に営業への不信感が強くなります。
スキルや希望よりも「稼働」が優先されやすい
SES営業の本来の役割は、エンジニアのスキルや希望に合った案件を見つけ、企業とエンジニアを適切にマッチングすることです。
しかし、SESビジネスではエンジニアが案件に入って稼働することで売上が発生します。
つまり、会社としては「待機期間を短くする」「単価を上げる」「稼働率を高める」ことが重要になります。
この評価軸が強くなりすぎると、エンジニア本人の希望やキャリアよりも、「とりあえず現場に入れる」ことが優先されやすくなります。
もちろん、すべてのSES企業がそうだというわけではありません。
ただ、売上構造として稼働が重視される以上、営業判断が短期的になりやすい面はあります。
現場理解が浅いまま案件を紹介する営業もいる
SES営業は、IT業界未経験からでも挑戦しやすい職種の一つです。
未経験から入れること自体は悪いことではありません。
むしろ、営業力やコミュニケーション力を活かして活躍している人も多くいます。
ただし、IT知識や開発現場への理解が不十分なまま営業を担当すると、エンジニアとの認識ズレが起きやすくなります。
たとえば、JavaとJavaScriptの違いが分からない、フロントエンドとバックエンドの違いが曖昧、要件定義・設計・実装・テストの工程差を理解していない、といった状態では、エンジニアのスキルを正しく案件に当てはめることが難しくなります。
その結果、営業本人に悪意がなくても、エンジニアからは

何も分かっていないのに案件を押し付けてくる
と見えてしまうのです。
SESというビジネスモデルが生む構造的な問題


SES営業への不満は、営業個人の能力や姿勢だけで説明できるものではありません。
根本には、SESというビジネスモデル自体が「営業と現場の距離が遠くなりやすい」構造を持っていることがあります。
営業は現場に常駐していない
SESでは、エンジニアはクライアント先や案件先で働きます。
一方で、営業は自社側にいて、複数のクライアントやエンジニアを担当することが一般的です。
つまり、営業はエンジニアの日々の業務内容や現場の空気を直接見ているわけではありません。
現場で何が起きているのか、エンジニアがどのようなストレスを感じているのか、クライアント側の指示が適切なのか。これらを正確に把握するには、丁寧なヒアリングや継続的なフォローが必要です。
しかし、担当人数が多かったり、営業自身が数字に追われていたりすると、十分なフォローができないことがあります。
「案件に入れたら終わり」になりやすい
SES営業の評価が、契約数や稼働率、売上に偏っている会社では、「案件に入れること」がゴールになりやすくなります。
本来であれば、案件参画後のフォローも重要です。
エンジニアが無理なく働けているか、契約内容と実際の業務にズレがないか、現場で不当な扱いを受けていないかを確認する必要があります。
しかし、営業が新規案件の開拓や他のエンジニアのアサインに追われていると、参画後のフォローが後回しになりがちです。
エンジニアからすると、



案件に入れた後は放置された
と感じます。
この感覚が、SES営業への不満をさらに強めます。
エンジニアのキャリアより短期売上が優先されることもある
エンジニアにとって、どの案件に入るかはキャリア形成に大きく影響します。
たとえば、開発経験を積みたい人が長期間テスト案件ばかりに入ってしまうと、将来的な転職や単価アップに不利になる可能性があります。
上流工程に挑戦したい人が、ずっと運用保守だけを担当している場合も同様です。
しかし、営業側が短期的な売上を優先すると、「今すぐ入れる案件」「単価が高い案件」「決まりやすい案件」が優先されることがあります。
その結果、エンジニア本人のキャリア希望と、会社の売上都合がズレてしまうのです。
責任の押し付けが起きやすいSESの多重構造


SES営業が批判されやすい理由の一つに、「責任の所在が曖昧になりやすい」という問題があります。
特に、元請け・二次請け・三次請けといった多重構造がある案件では、トラブルが起きたときに責任が下へ下へと流れやすくなります。
商流が深いほど責任が見えにくくなる
SES案件では、エンジニアの所属会社と実際の現場企業が直接契約しているとは限りません。
たとえば、以下のような商流になることがあります。
- エンド企業
- 元請け企業
- 二次請け企業
- 三次請け企業
- エンジニアの所属会社
- エンジニア本人
このように間に複数の会社が入ると、案件内容や条件が伝言ゲームのように伝わっていきます。
その過程で、業務内容が曖昧になったり、責任範囲がぼやけたり、現場の実態と契約内容にズレが生じたりします。
トラブル時に責任が下へ降りてきやすい
プロジェクトで問題が起きたとき、責任の流れは上から下へ向かいやすくなります。
クライアントから元請けへ指摘が入り、元請けから下位会社へ確認が入り、最終的に現場で作業しているエンジニアへ圧力がかかる。こうした構図は、SES業界では珍しくありません。
もちろん、本来は契約内容や指揮命令系統に基づいて、適切に責任を整理する必要があります。
しかし、商流が深くなるほど「誰が何を決めたのか」「どこまでが誰の責任なのか」が見えにくくなります。
その結果、現場のエンジニアが矢面に立たされることがあります。
営業も板挟みになりやすい
責任の押し付け構造の中で、SES営業も楽な立場にいるわけではありません。
営業は、クライアントの要望、自社の売上目標、エンジニア本人の希望の間で調整する立場にあります。
クライアントからは「もっとできる人を出してほしい」と言われ、自社からは「稼働を切らさないように」と言われ、エンジニアからは「この現場は合わない」と相談される。
このように、営業自身も板挟みになりやすい職種です。
ただし、ここで現場理解が浅かったり、エンジニア側の状況を軽視したりすると、営業の対応は「会社都合を押し付けているだけ」に見えてしまいます。
SES営業の質に差が出やすい理由


SES営業は、人によって評価が大きく分かれる職種です。
「この営業には本当に助けられた」という声もあれば、「二度と関わりたくない」という声もあります。
なぜここまで差が出るのでしょうか。
参入障壁が比較的低い
SES営業は、医師や弁護士のように特定の資格が必須の職種ではありません。
未経験から採用されることも多く、IT業界の経験がなくても営業職としてスタートできます。
これは、キャリアチェンジしやすいという意味では良い面もあります。
しかし、裏を返せば、IT知識や業界理解が浅いまま現場に出る人もいるということです。
教育体制が整っている会社であれば問題は少ないですが、そうでない会社では、営業担当者の個人努力に大きく依存します。
教育が体系化されていない会社もある
SES営業に必要なのは、単なる営業力だけではありません。
エンジニアのスキル理解、IT用語の理解、開発工程の理解、契約や商流への理解、キャリア支援の視点など、幅広い知識が求められます。
しかし、すべてのSES企業がこれらを体系的に教育しているわけではありません。
「先輩の営業に同行して覚える」「案件をこなしながら学ぶ」といった属人的な教育になっている会社もあります。
その結果、営業ごとに知識量や対応品質に大きな差が出ます。
数字だけで評価されると対応が雑になりやすい
営業職である以上、売上や契約数が評価されるのは自然なことです。
しかし、数字だけが重視されると、エンジニアのキャリアや現場での働きやすさが後回しになる危険があります。
たとえば、以下のような行動が起きやすくなります。
- 本人の希望と違う案件でも強く勧める
- 案件内容のリスクを十分に説明しない
- 商流や契約条件を曖昧にしたまま進める
- 参画後のフォローを後回しにする
- トラブル時にクライアント側の意見ばかり優先する
こうした対応が続けば、エンジニアから信頼されなくなるのは当然です。
優秀なSES営業は何が違うのか


ここまでSES営業が批判されやすい理由を見てきましたが、すべてのSES営業が悪いわけではありません。
むしろ、優秀なSES営業はエンジニアにとって非常に心強い存在です。
エンジニアのスキルと希望を正しく理解している
優秀な営業は、エンジニアのスキルシートをただ見るだけではありません。
これまでどのような工程を担当してきたのか、どの技術に強みがあるのか、今後どのようなキャリアを目指しているのかを丁寧に確認します。
そのうえで、本人に合う案件を提案します。
短期的に決まりやすい案件ではなく、中長期的にキャリアにつながる案件を考えてくれる営業は、エンジニアにとって大きな価値があります。
無理なアサインを避けてくれる
優秀な営業は、エンジニアのスキルと案件内容に明らかなミスマッチがある場合、無理に参画させようとはしません。



この案件は単価は良いが、今の経験では負荷が高すぎる



希望するキャリアとは少しズレている



商流が深く、条件交渉がしにくい
このように、案件のリスクも含めて説明してくれます。
エンジニア側からすると、良い情報だけでなく悪い情報も伝えてくれる営業の方が信頼できます。
トラブル時に間に入って調整してくれる
SESでは、現場でトラブルが起きることもあります。
業務内容が契約と違う、残業が多すぎる、指示系統が曖昧、ハラスメントに近い扱いを受けている。
こうした問題が起きたとき、営業が適切に動いてくれるかどうかは非常に重要です。
優秀な営業は、エンジニアの話を聞いたうえで、クライアントや上位会社と調整します。
もちろん、すべての希望が通るわけではありません。
それでも、現場の状況を理解し、改善に向けて動いてくれる営業であれば、エンジニアの安心感は大きく変わります。
エンジニア側が確認すべきポイント


SES営業への不満がある場合でも、「営業が悪い」で終わらせるだけでは、自分のキャリアを守ることはできません。
エンジニア側も、案件に入る前に確認すべきポイントを押さえておくことが重要です。
案件内容を具体的に確認する
まず確認すべきなのは、案件内容です。



開発案件です



上流工程もあります
といった抽象的な説明だけで判断するのは危険です。
最低限、以下のような点は確認しておきたいところです。
- 担当する工程はどこか
- 使用する技術は何か
- 新規開発か、既存改修か
- チーム体制はどうなっているか
- 自社の社員や同じ会社のメンバーはいるか
- 実際に求められるスキルレベルはどの程度か
説明が曖昧な場合は、その時点で注意が必要です。
商流と責任範囲を確認する
SES案件では、商流も重要です。
商流が深くなるほど、条件交渉がしにくくなったり、現場の実態が見えにくくなったりします。
また、責任範囲も確認しておくべきです。
自分はどこまでの業務に責任を持つのか、誰から指示を受けるのか、問題が起きたときは誰に相談すればよいのか。
こうした点が曖昧なまま参画すると、後からトラブルになりやすくなります。
複数の営業や会社を比較する
SES営業の質には差があります。
そのため、一人の営業、一社の説明だけで判断するのではなく、複数の会社や営業担当と話して比較することも重要です。
同じスキルでも、会社によって紹介される案件や単価、フォロー体制は変わります。
複数の選択肢を持つことで、



この営業の説明は曖昧だな



この会社はフォローが弱そうだな
といった判断もしやすくなります。
責任を押し付けられる環境に長くいるリスク


責任の押し付けが起きやすい環境に長くいると、精神的な負担だけでなく、キャリアにも影響が出ます。
「今の現場がつらい」だけで済まない可能性があるため、早めに状況を見極めることが大切です。
スキルが伸びない案件に固定される
ミスマッチな案件に長く入っていると、伸ばしたいスキルが伸びないまま時間が過ぎてしまいます。
たとえば、開発経験を積みたいのにテストや監視業務ばかり担当している場合、次の転職時にアピールできる実務経験が増えにくくなります。
SESでは「現場に入っていること」自体は職歴になりますが、どのような業務を経験したかが重要です。
キャリアにつながらない案件に長くいる場合は、営業や会社に相談し、案件変更を検討する必要があります。
不当な責任を背負わされる可能性がある
責任範囲が曖昧な現場では、本来エンジニア個人が背負うべきでない問題まで押し付けられることがあります。
たとえば、要件が曖昧だったにもかかわらず実装者の責任にされる、スケジュールに無理があったにもかかわらず作業者の能力不足とされる、といったケースです。
こうした環境では、自己評価が下がったり、精神的に追い詰められたりすることもあります。
「自分の努力不足だ」と抱え込む前に、構造的に無理がある現場ではないかを冷静に見る必要があります。
状況によっては転職やフリーランスも選択肢になる
営業や会社に相談しても改善されない場合は、転職を検討するのも一つの選択肢です。
SES企業の中にも、エンジニアのキャリア支援を重視している会社はあります。
商流を重視して案件を選んでいる会社や、フォロー体制が整っている会社もあります。
また、経験やスキルが十分にある場合は、フリーランスとして案件を選ぶ働き方もあります。
もちろん、フリーランスには営業や契約、税務などの自己管理が必要です。
安易に選ぶべきではありません。
ただ、責任を押し付けられやすい環境から抜け出し、自分で働き方をコントロールするという意味では、有力な選択肢の一つです。
「SES営業=底辺」と一括りにするのは正確ではない


ここまで見てきたように、SES営業が「底辺」と言われる背景には、現場エンジニアの不満だけでなく、SES業界特有の構造があります。
ただし、SES営業という職種そのものを一括りにして否定するのは正確ではありません。
問題は個人だけでなく構造にもある
営業個人の対応が悪いケースは確かにあります。
案件内容を十分に確認せずに紹介する、エンジニアの希望を聞かない、トラブル時に連絡が遅い、会社都合を押し付ける。こうした営業が不信感を持たれるのは当然です。
一方で、営業自身もクライアント、自社、エンジニアの間で板挟みになっています。
さらに、多重請負構造、売上重視の評価軸、教育体制の不足といった業界全体の問題もあります。
つまり、SES営業への不満は、個人の能力だけでなく、構造的な問題から生まれている面が大きいのです。
良い営業を見極める視点が重要
エンジニア側としては、



SES営業は信用できない
と決めつけるのではなく、営業の質を見極めることが重要です。
良い営業は、案件の良い面だけでなく、リスクや懸念点も説明します。
エンジニアの希望を聞き、キャリアに合わない案件を無理に押し付けません。
参画後も定期的にフォローし、トラブル時には間に入って調整してくれます。
逆に、案件の詳細を説明できない、商流を曖昧にする、希望と違う案件ばかり勧める、質問への回答が雑といった営業には注意が必要です。
SES業界では、会社や営業担当による差が大きいため、見極める力が自分のキャリアを守ることにつながります。
まとめ
- SES営業が「底辺」と言われる背景には、案件ミスマッチや対応の雑さだけでなく、SES業界の構造的な問題がある
- 多重請負や売上重視の評価軸により、責任の所在が曖昧になり、エンジニアに負担が寄りやすい
- すべてのSES営業が悪いわけではなく、エンジニアのキャリアを理解して支援してくれる優秀な営業もいる
「SES営業=底辺」と一括りにするのは正確ではありません。
ただし、そう言われてしまう背景には、現場エンジニアが実際に感じてきた不満や、責任が下へ流れやすい業界構造があります。
エンジニアとしては、営業や会社を感情的に批判するだけでなく、案件内容・商流・責任範囲を事前に確認し、自分のキャリアを守る視点を持つことが大切です。










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