「転職は当たり前」「転職しすぎはマイナス」──この相反する意見の背景には、2018〜2022年に起きた“エンジニアバブル”があります。
当時は転職を重ねるほど年収が上がり、経験の多さが歓迎される時代でした。
しかし2023年以降、採用基準は一気に厳格化し、過度な転職歴は評価を下げる要因になりつつあります。
本記事では、転職ブームの背景と終焉、今後のエンジニアキャリアの築き方までを解説します。
なぜエンジニアは転職を繰り返していたのか

エンジニアが短いスパンで転職を繰り返していた背景には、市場そのものが“転職するほど得をする構造”になっていたことがあります。
まずは、当時どのような売り手市場が形成されていたのかを振り返り、その空気感を整理してみます。
“転職が当たり前”だった時代背景と市場の空気感
2018年頃から数年間、IT業界ではエンジニアが不足している状況がピークに達していました。DXの本格化、クラウド導入の急増、SaaS企業の爆発的な成長などが一気に進んだことが背景にあります。これに加えて、新型コロナによるデジタルシフトが拍車をかけ、多くの企業がオンラインサービスを整備せざるを得なくなりました。
こうした事情により、「エンジニアがいれば採用したい」という状態が業界全体に広がり、転職市場は完全に“売り手市場”となりました。企業側はエンジニアの動向を常に追いかけ、少しでも良い人材がいれば高条件で迎え入れるという状況が続きました。採用担当者からは「面接で多少不安があっても、採るしかない」という声すら聞かれたほどです。
この環境下では、「1社でじっくり経験を積む」という従来型のキャリアより、むしろ「数年ごとに転職して市場価値を上げる」ことが合理的な行動になっていました。こうした状況が、システムエンジニアの転職が“当たり前”という風潮をつくり出したのです。
転職するだけで年収が伸びた理由
この時期の特徴は、エンジニアが転職をするだけで年収が上がりやすい構造が形成されていたことです。
前職で年収450万円の人が、次の会社で500万円、さらにその次の会社で600万円以上になることは珍しくありませんでした。
こうした状況が生まれたのは、企業がエンジニア不足を補うために「条件の引き上げ」を行っていたためです。少しでも優秀な人材を確保するために、候補者の希望年収を満額で通す採用が頻繁に行われていました。
転職を繰り返すほど年収が上がる構造が当たり前になり、「転職=年収アップ」という価値観がエンジニアの間に広がっていきました。
転職回数がむしろプラス評価だった時代
この時代の企業は、「転職が多い人=キャリア志向が強い」「市場から求められている証拠」と考えていました。
スタートアップ界隈では、短期間で複数社を経験していることが“適応力が高い”というプラスの評価につながることすらありました。
つまり、エンジニアバブルの期間は「転職しすぎ」という概念がほとんど意味を持っていませんでした。むしろ転職回数が多いことを肯定的に見られていた時代だったと言えるでしょう。
エンジニア転職ブームはなぜ終わったのか?

かつて“転職すれば誰でも年収が上がる”と言われたエンジニアバブルは、2023年を境に明確な終わりを迎えました。
ここでは、その転換点に何が起き、なぜ転職ブームが急速にしぼんでいったのかを整理していきます。
エンジニア需要のピークはいつだったのか
「エンジニア需要はいつまで続くのか?」という問いに対して、2022年が一つのピークだったと言えます。
2023年に入ると、世界的な不況や資金調達環境の悪化、IT企業の株価下落などが連動して起こり、多くのスタートアップやテック企業が採用計画を縮小しました。
この影響で、「どんなエンジニアでも採用したい」という時代は終わり、企業は“本当に必要な人材だけ採用する”という慎重な姿勢に切り替わりました。
エンジニアの売り手市場は、2023年を境に明確に縮小に向かったのです。
転職しすぎエンジニアが急に敬遠され始めた理由
市場が落ち着くと、企業が候補者を見る目も厳しくなります。
バブル期に肯定されていた転職の多さが、今では企業が最も慎重に見るポイントになりました。
特に次のような懸念が生まれています。
転職を繰り返して年収を上げてきたエンジニアに対して、採用企業は「スキルに対して希望年収が高すぎるのでは?」と疑うようになりました。バブル期の高年収を基準に転職活動を進めると、企業側の提示額と合わず不採用になるケースが増えています。
また、転職回数が多い人に対して「またすぐ辞めるのではないか」という不安も生まれます。
さらに、転職が多いとプロジェクトを最後まで担当した経験が少ない場合があり、「完遂力があるのか」「責任感はあるのか」といった点が疑問視されやすくなります。
そのため、2023年以降は “転職しすぎエンジニアが落ちやすい市場” へと変化しているのです。
市場が“中身で評価する時代”へ戻ったという現実
バブル期は、転職が多くてもスキルシートに書ける技術キーワードが豊富であれば採用につながるケースがありました。しかし今は違います。
企業はエンジニアに対して、
- どのようなプロジェクトに関わったのか
- どのように成果を出したのか
- チームにどのように貢献したのか
- 問題が発生した時にどう対処したのか
- 上流工程を経験しているか
といった“中身”を見ます。
つまり、採用市場が本来の姿に戻ったのです。
今の転職活動がしんどい理由

かつては“転職さえすればどこかに受かる”と言われたエンジニア市場ですが、今は状況が大きく変わり、転職活動そのものが負担になっている人も少なくありません。
では、なぜここまで転職がしんどいと感じられるようになったのか。その背景にある市場の変化を見ていきます。
売り手市場の終わりがもたらした選考基準の変化
バブル期は転職すれば複数社から内定が出ることも珍しくありませんでした。
しかし現在は、書類選考の通過率が落ち、面接でサラッと話して通るような状況ではなくなっています。企業が選ぶ側に戻ったことで、候補者への要求レベルが上がり、本質的な技術力やプロジェクト経験を問う場面が増えています。
なぜ今、エンジニアは転職がストレスになりやすいのか?
転職活動がストレスになっているエンジニアは少なくありません。
今の転職市場は、企業側の基準が厳しくなっているため、求められる情報量も増えています。「転職すれば年収が上がる」「転職は簡単」という感覚を持ったまま挑むと、現実とのギャップに苦しむことになります。
この“転職しづらさ”は、エンジニア転職市場が大きく変化したことを象徴しています。
これからの市場はどうなる?

売り手市場が一段落した今でも、エンジニア需要そのものが消えたわけではありません。
むしろ領域によっては“これからさらに不足する”分野もあり、市場は一様に冷え込んだわけではないのです。
優秀なエンジニアは今後も売り手市場が続くという事実
単純な作業を担当するエンジニアの需要は減少しますが、
高度なスキルを持つエンジニアは今後も不足すると見られています。
特に、上流工程や業務理解、セキュリティ、クラウド、データ領域を担える人材は、どの企業でも喉から手が出るほど求められています。
つまり、売り手市場は“エンジニア全体”ではなく、“実力者に限定して続く”のです。
需要が“なくなる”のではなく“求められる人材が変わる”だけ
「エンジニアはAIに置き換わる」といった意見も聞かれますが、これは誤解です。
AIが進化しても、要件定義、アーキテクチャ設計、業務理解、顧客調整といった領域は人間が担う必要があり、エンジニアという職種は今後も必要とされます。
ただし、求められる人材像が変わるのは間違いありません。
作業者ではなく、“問題を解決できるエンジニア”が求められるようになっていきます。
これからのエンジニアはどう動くべきか

転職を繰り返すだけでキャリアが伸びた時代は終わり、エンジニアの働き方そのものが見直されつつあります。
では、市場環境が変わった今、エンジニアはどのように動けば将来の価値を守り、さらに高めていけるのでしょうか。
転職回数よりも“積み上げた経験”が価値になる時代へ
これからの市場では、表面的なスキルよりも、長期的なプロジェクト経験や業務理解が強く評価されます。
転職回数が多いことはマイナスではありませんが、経験に一貫性があり、成果が明確であるかどうかが重要になります。
企業が本当に求めるエンジニア像とは?
企業が求めているのは、技術の深さだけではありません。
顧客とのコミュニケーション能力やチームを支える姿勢、業務への理解といった、人間としての総合力が求められるようになっています。技術だけでなく、プロジェクトを円滑に進める“現場力”を持つエンジニアは、どの企業も高く評価します。
転職は悪ではない。ただし“目的のない転職”は最大のリスクになる
転職が悪いわけではありません。
しかし、目的のない転職や、年収だけを追い求める転職は、キャリアを傷つけるリスクがあります。
転職を考えるときには、「自分は何を得たいのか」「どんなキャリアを作りたいのか」といった軸が必要です。
まとめ

- エンジニア市場は“実力重視”の時代へと回帰
2018〜2022年のバブル期とは異なり、2023年以降はスキルや実績がより厳しく見られる傾向にあります。 - 転職回数ではなく“中身”が問われる時代に変化
頻繁な転職は敬遠されがちですが、経験の質や成長が伴っていれば市場価値は十分に高まります。 - 優秀なエンジニアは今後も売り手市場
高度なスキルや業務理解を持つ人材は、今後も企業から求められ続けます。
エンジニアという職種の価値が落ちたわけではありません。
大切なのは、自分のキャリア軸を再確認し、実力と経験を着実に積み上げていくことです。


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